99/11/12 「百器徒然袋―雨」(講談社ノベルス) 京極夏彦
「わははははは荒唐無稽と云うのはこう云うことを云うのだ。深刻なばかりが現実ではないぞ馬鹿者ども!これも現実だと思い知るがいい!」 (P469)
雑誌「メフィスト」に掲載されていた中編三本、「鳴釜」、「瓶長」、「山颪」が単行本にまとまったもの。
私は再読なのですが。微妙に加筆・修正されてるみたいです。多分、1番加筆されているのは、「山颪」のラスト。榎木津の暴れる様子が加えられている(^^)
このシリーズの主人公は、なんとあの榎木津礼次郎。といっても、語り手は榎木津ではない(エノさんの一人称って、小説にならないだろう)。語り手の登場人物の名前は最後まで不明で、「山颪」の最後に明かされる。それまでは、めちゃくちゃな偽名で呼ばれている。その偽名をつけたのが、京極堂、今川、伊佐間・・・遊んでるよなあ(^^)
そして、なんといっても見どころ(読みどころ?)は、動く京極堂でしょう。たすきを掛けて釜を洗う京極堂(うっかり焦がしたなんて、京極堂がうっかりだなんて、なんだかそれだけで嬉しいではないですか。私だけ?)榎木津の探偵事務所や、マチコ庵に訪れる京極堂など、長編シリーズではまず見られまい。
それから、千鶴子さんと会話するところもいいですねええ。
なにより、榎木津に唆されて嫌々やっているようでいて、実に楽しそうに悪ノリして、遊んでいる京極堂を見られるのは嬉しい。長編シリーズが深刻な雰囲気だったので。
「百器徒然袋−雨」 京極夏彦 講談社ノベルス 1999年11月17日
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ストーリー 「京極堂シリーズ」でおなじみの榎木津礼二郎が縦横無尽に暴れまわる。相変わらずのメンバーも活躍する、榎木津ファンならず、京極堂ファンも楽しめる3編の中篇集。 |
感想
面白いです。久しぶりに小説を読んでるときに笑ってしました。舞台は塗仏の直後です。主人公の榎木津が、シリーズの中でも1番好きなので、大変満足な一作です。この名探偵の支離滅裂な言動を、上手く京極堂が先導して物語を引っ張っています。やはり榎木津が主人公では、物語として話しが成立しないのでしょう。 物語の一人称は、第1話の依頼人である”僕”なのですが、この人は何もしません。毎回何故か、榎木津に巻き込まれて行く。しかし、この”僕”の気持ち分からないでもないです。セツナが”僕”であっても同じ結果になったでしょう。たとえ「君はいつかの何とか云う人」としか憶えられないとしても。物語の中で最後まで本名が出てこなかった"僕”も、最後の1行でやっと本名で呼ばれる。もう、この名探偵の活躍する話は書かないのかな?それとも、また違う形で再開されるのでしょうか。楽しみです。 「鳴釜」美弥子さんの気丈な姿素敵です。 「瓶長」京極氏の話にしては分かりやすい憑き物でしたね。 「山颪」名探偵が怒る気持ち分かります。セツナも見たいです。 |