和音島で恐怖の体験をし、精神的にダメージを受けていた如月烏有。彼は、ある日、バナナの皮で滑って転んで、事件のことだけ忘れた部分的記憶喪失になってしまう。その記憶を取り戻そうと、彼は毎週、神社や寺に放火していった。だが、焼け跡には、必ず自分には殺した覚えのない
他殺体が転がっているのだった。それでも放火を続ける彼のもとにある日、「次は何処に火をつけるつもりかい?」との脅迫状が届く。 『夏と冬の奏鳴曲』の続編的な作品。島田荘司の『異邦の騎士』のような、泣ける作品だ。この主人公、如月烏有が、まるで関口君みたいに、心に傷のあるダメ人間なのだ。そして、どういう訳か、彼に絡んでくる”銘”探偵・メルカトル鮎。面白い要素が満載なのだ。しかし、 今回は、途中で結末(犯人・トリック)が読めてしまった。それ故、★4つとなっている。 それにしてもこの「麻耶雄嵩」という人は変わった人だ。特に固有名詞の付け方が変わっている。作品の顔ともいうべき探偵に「メルカトル鮎」と名付けたり、今回は、「わぴ子」なんていう 名前の人物まで登場する。さらに、メルカトルの服装まで変わっている。京極堂の黒の着流しじゃないけれど、メルカトルはタキシードに身を包み、シルクハット、さらにステッキや赤いバラ、パイプといった小物を携帯しているというまさに場違い男。当然のことながら性格まで変わっている。 死体を前にして、探偵講座(?)を開いたりするのだ。 |
「痾」 麻耶雄嵩(講談社文庫)
「メルでいいよ」・・・今回のツボでした(笑)それはともかく、ストーリーは、トリックなどスッキリしていて、今までの著者の作品と比べると、文章も読みやすいし、なんだか「普通」になったという感じがした。ただ、前作の続編と見たとき、ちょっと怖い存在を感じのは私だけではないだろう。巫子神のキャラクターもいい。