麻弥さんの書評
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●「バトル・ロワイアル」高見広春[太田出版](99/4/22)

ずいぶん悪趣味な話でした。…でも面白い。
アジアの東に存在する大東亜共和国は、総統によって支配される、ファシズム国家であった。その国で毎年行われる「プログラム63」。それは、任意に中学三年の50クラスを選び、「ゲーム」を行わせる。その「ゲーム」は、隔離された場所で互いに殺し合せ、最後に残った一人のみが勝者となり帰宅することができる。そして、香川県城岩中学3年B組がこのプログラムに選ばれ、デスゲームが開始された……
今まで一緒に過ごしてきたクラスメイトたちとの殺し合い。普通だったらできないだろうけど、でも状況的に追いこまれたら……脅えるあまり近寄る人を殺してしまうもの、積極的にゲームに参加するもの、極限状況から智恵をつくして脱出を図ろうとするもの……同じクラスに好きな子がいたり、イジメっ子やイジメられっ子や不良がいたり。それらの思いの交錯とちょっとした行き違いから起こる悲劇。極限状況の中、誰を信じることができるか……信頼、愛、友情。そういうものが試されてるわけで。
サバイバルドラマが容赦なく描かれています。特に中盤から終盤への展開は秀逸。
えげつない話なのに、切なくて、最後は泣いてしまいました。
ただひとつ残念なのは、このかなりイカれた「大東亜共和国」にリアリティを与えるだけの筆力が不足していたことかな。このかなりおかしい「プログラム」のことを全国民が知っている…というのはやはりいくらなんでも、という感じはする。国際社会が許さんでしょう、それは。
私自身は自分の命の危険を感じるような状況に追いこれまたことがないから、そうなった瞬間に自分の生命に執着するあまり他の人を殺してしまうのか、誰かを信じきる事ができるかわからないです。……色々と考えてしまいましたが。
私はこの本は、リウイチさんのページの「積ん読パラダイス」の書評(すっごいおもしろいです!!)をみて買ったんですが、それを読んで興味を持った方はぜひ読んでみてください。…って人に勧めるような本ではないかもしれないけど。悪趣味だし。


hideさんの書評
HPはこちら Dr.Jekyll and Mr.hide


『BATTLE ROYALE バトル・ロワイアル 高見広春(太田出版)
笑い1.0点 涙 2.0点 恐怖4.0点 総合4.5点
 圧政・総統への絶対服従・思想教育・準鎖国政策とファシズムの典型である大東亜共和国。この国では、毎年、 全国の中学3年生のクラスを50組を選び、”プログラム”と呼ばれる戦闘シミュレーションを行わせていた。それは、 同じクラスの生徒同士が武器を手にし殺し合い、最後の一人のみ生きて帰ることが出来る、という最悪の殺人ゲームだった。
 そして今年、七原秋也のクラスが、楽しい修学旅行から一転、地獄の殺人ゲームの対象に選ばれたのだった。

 プロレス好きの僕は、テレビで「バトルロイヤル」というのを何回か見たことがある。同じ最後の一人を決めるゲームでも、 プロレスのそれは、お祭り的要素が強い。しかし、この「バトルロワイアル」は、あまりにも凄惨すぎる。吐き気をもよおすような 描写の連続。仲のいい友達も、恋人も互いに疑い合い、殺し合い、次第に減っていく生き残り。”坂持金発”というふざけた役人。 何もかもに不快感がつのる一方だ。しかし、666ページ(皮肉にも悪魔の数字だ)もある殺し合いを読むうちに、「死」に対する 感覚がマヒし、徐々に「次は誰だ?」「あと何人だ?」と悪魔的思考になっていってしまうのだ。
 読み終えた今、果たして僕は正常な人間の神経を保っているのだろうか。

セツナさんの書評
HPはこちら 一瞬の憶念


「バトル・ロワイアル」
-BATTLE ROYALE-

高見広春 太田出版

ストーリー
 香川県城岩町立城岩中学校3年B組の七原秋也ら生徒42人は、夜のうちに修学旅行のバスごと政府に拉致され、高松市沖の小さな島に連行された。催涙ガスによる眠りから覚めた秋也たちに、坂持金発と名乗る政府の役人が、"プログラム"の開始を告げる。

感想
 約、一年半振りの再読になります。このHPを作って最初に感想を書いた作品ということもあって、思い入れのある作品です。今回、映画上映に先駆けて再読しました。初読のときには、物語の疾走感に一気に読み進めてしまいましたが、再読だと気が付かなかった所に目が行きます。
 「
中学生42人皆殺し!?デス・ゲーム文学の誕生」という帯の宣伝文句が衝撃的で、興味を惹き付けられて、クラスメイト同士の殺し合いに注目してしまいがちですが、十人十色というように、それぞれ四十二人の心理を丁寧に一人一人、どの様に、この"プログラム"と向き合うかが描かれていて、それなりに、この異常状態に共感できる部分がありました。
 果たして、自分が当事者だったなら、どんな行動をとるのか。そのことを考えずにはいられませんでした。

ネタバレ感想
 生き残るためには、殺さなければならない。友達が敵となる瞬間。そんな極限状態で人がどの様に変貌していくのか。
 積極的に殺しに走る者は、桐山和雄相馬光子赤松義生の三人。置かれた境遇に悲観して、自殺したのは山本和彦小川さくらのカップルと、理性が飛んでしまった自分への嫌悪感から自殺(?)した榊裕子。その他の人間は、こんな境遇でも、隠れて穏便にときが過ぎるのを選んだのです。死にたくもないが、殺したくもない。これが普通の考えなのかな。
 しかし、誰かに出逢えば、そいつは殺そうとしてくるかもしれない。現に遠くからは銃声も聞こえて来ている。恐怖心にあおられ追い詰められて、生き残るための危険回避と、自分をいい聞かせる正当防衛を楯に、徐々に殺戮の輪は広がっていく。昨日まで隣で授業を受けていたクラスメイトが、殺人鬼にしか見えない。残酷な設定ながらも、人の弱さが明るみに出る瞬間がきちんと描かれています。
 それと、生き残るためには、見捨てることも、躊躇なく殺すことも選択しなければならない。そんな、殺伐とした状況でも、たった三人しか死を選ばないという展開には、人の生に対する執着というよりも、作者自身が命を粗末に扱うつもりがないのが伺えます。
 中心として描かれる人物は七原秋也。"
プログラム"に選ばれたことに驚愕し、竹馬の友、国信慶時の死に対して憤怒し、頼れる友人、三村信史と共に、なんとかこの状況を打破しようとする心理は、正しく等身大の中学生という気がします。
 中学三年生なんて、一人で何かを考えるには、やはり経験が少な過ぎる年齢だと思いますから。そんな中、三村信史川田章吾の存在は異質といえるでしょう。サバイバルの知識に長け、コンピュータのハッキングもできる。この二人と七原がきちんと出逢えていたなら、展開はまったく違った物になっていたのではないか、と思えるところに作品に広がりを感じさせる。それだけ、丁寧に人物が作られているということかな。
 二日間の出来事に、色々なドラマが描かれていますが、センチメンタルな思いだけを胸に、ひたすら琴弾加代子を探していた杉村弘樹が、終盤でようやく思いを遂げるシーンは印象的です。直情バカな行動が憎めなくて。こういうヤツは嫌いじゃない。

  1999年8月10日初出
2000年12月11日改訂

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