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シリーズになっているらしい匠千暁ものの3作目。この前作に当たるらしい『彼女が死んだ夜』は私はまだ読んでいないけど、キャラクタ的にはそちらからの引きがあるようで。一応前作が未読でも十分楽しめました。 道に迷って偶然迷い込んだ空っぽの山荘に残されていた100本近いビールとベッド。これらのものは一体何を示しているのか!?という疑問に、登場人物達は延々呑みながら珍解答迷解答をひねり出して行く。そして最後に明らかになる真実とは? 話全体としてはちょっと小粒かな、とも思えたけど、それでもこの『麦酒の家』の仕掛けだけで最後まで引っ張るのは凄い。一番最初に仕掛けられる問題が単純な分だけ不可解で、何とでも言えそうでありあながちな解答は受け付けそうでなかったり。その分、話全体がトリックのためのトリックというか、トリックにストーリーが飲み込まれている印象がある。もしかしたらそう言った効果も少なからず狙っていたのかも知れない。安楽椅子探偵を狙ったとあとがきにもあるから、その型にはめたかったのかも。まあこれだけ動きのない話をそれなりに読ませるのは手腕だなと思った。 とにかく最初に提示された限られた条件の中で酔いと共にひねり出されてくる解答の数々はそれだけで面白い。酔っぱらっていて何故ここまで論理的かね君たち…。タックが酔っぱらっていく過程の描写はえらくリアルで、読んでいて一緒に酔いそうになってしまった。うげえ。 一番面白かった解答は、一瞬で却下されてしまっていたけれどもロシアンルーレット説かな。子ども誘拐説なんかは、本当の解答よりもこちらの方がありそうだと思ってしまった。つまりシーツやカバーの柄は関係なかったのね。なかったのになんでまたそんな柄だったんだろう…ダイエーで安売りでもしてたのか。 サングラスは一番最初に出てきてコイツ何かあるなとは思ってましたが。思ってただけで全然関連づけては考えていなかった。いつもこのパターン…途中の論理が華麗で面白かった分だけ、真相が尻つぼみな感じがしました。でもラストの台詞は、なかなか秀逸だったな。 |
「麦酒の家の冒険」 2000年6月20日 |
ストーリー ドライブの途中、四人が迷い込んだ山荘には、一台のベットと冷蔵庫しかなかった。冷蔵庫には、エビスのロング缶と凍ったジョッキ。ベットと96本のビール、13個のジョッキという不可解な遺留品の謎を酩酊しながら推理するうち、大事件の可能性に思い至るが――。 タック、タカチ、ボアン、ウサコの4人組が活躍するシリーズ学生編第2弾 |
感想 ひたすら推論だけで展開して行く典型的な安楽椅子探偵物ですがその謎の突飛なことといったら(笑)ひたすら4人で推論している為に登場人物は少ないのですが、その分4人の個性が出ていて前作では出番の少なかったウサコの性格が出てきて4人の掛け合いを楽しめました。しっかしひたすらビールを飲み続けているこの4人、そのうち誰か体調崩しそうです(爆)。推論展開の限界を示唆しつつも真相に迫って行く展開は読み応え十分です。 ネタバレ感想 突飛な謎が題材だったのでどんな真相が隠されているのかと思ったら、普通の事件の真相と変わりなかったですね。西澤氏お得意のSF的な物凄いことでも起きるんじゃないかと思っていたので見事にスカされました。こんな謎に大道の結末とはお見事。 |
匠千暁ら4人が迷い込んだ無人の山荘。その中には、目立った家具もカーテンもなく、1台のベッドと、まるで隠してあるかのように
置かれていた冷蔵庫、そしてそのなかには、96本ものビールのロング缶と13個のジョッキがあるだけだった。いったい誰が
何のためにこんなことをしたのか?彼ら4人は、ビールを飲みながら推理をしていく。 著者は、ハリイ・ケメルマンの『九マイルは遠すぎる』に感動し、同じ趣向で長編を書いてみようということで、本書を執筆したそうだ。 つまり、長編のアームチェア・ディテクティブに挑戦したというわけだ。 読後の率直な感想はというと、ちょっと冗長だったかな、と思った。4人がそれぞれ推理を重ねていくので、真相ではない推理も当然でてくる。 本書は、それが4人分もあるからよけいに冗長に感じてしまう。『九マイルは遠すぎる』のように、一人で推理を重ね、真相にたどりつくという 短編形式の方が僕は好きだし、この種の小説には合っていると思う。また、この種のミステリにありがちな、強引な推理も少々気になった。 とはいえ、96本のビールとベッドが一つだけしかない山荘という状況から、よくぞここまで推理をしたものだ。 |