「山崎ぶたぶた」という名前の「生きている」ピンク色のぶたのぬいぐるみと、彼が出会う人々のお話です。連作短編集。ちょっと前にネットの書評系で話題になってたので気になっていたので、文庫本化を機会に購入。
ほわんとしたお話。特にどうってことはないお話ばかりですが、読んでて気持ちが緩むというか。個人的にはタクシーのお話とプールのお話がよかったです。
『ぶたぶた』 徳間デュエル文庫 矢崎在美 |
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収録作品 初恋/最高の贈り物/しらふの客/ステレンジ ガーデン/銀色のプール/追う者、追われるもの/殺られ屋/ただいま/桜色を探しに |
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感想
あるときはベビーシッター。かと思いきや、次の話では本場フランスからお声が掛かる有能なシェフだったり、首のないタクシーの運転手だったりする。
唯一の共通点は、その姿がバレーボールぐらいの大きさの、ピンクのぬいぐるみだということ。 ピンクのぬいぐるみ? 本書を読んだことのない人には不可解かもしれないけれど、本書の主人公が出会うのは、可愛らしいブタのぬいぐるみなのです。しかも、喋りもすれば食事もする、一般人と変わりない普通の生活をしているぬいぐるみに。 しかも、不思議なことに、周りの人は、その姿に疑問を持つにしても、普通に接し個人として認知している。好きな人にはたまらない世界なのかもしれないが、セツナには、そこが世界に入り込めない弊害になってしまった。 何故に、みんなぬいぐるみが生きて生活しているのに疑問をもたないのですか? そりゃ、ぶたのぬいぐるみに出会った主人公は、人として生活していることを不思議がったり、驚いたり、疑問に思ったりはしているんだけど、別に真実を見極めたりはしないんだよね。けど、おかしくありません? だって、ぶたのぬいぐるみなんだよ。 何故食べる。身体の中には綿しかないのに食べ物を消化できるのか?喋れるの?声帯はあるのか?そもそも、骨格がないのに立てるのか?動けるのか?疑問は一向に解決されない。 ぶたぶたに出会った主人公たちは、抱えている悩みやわだかまりから開放される。逆に言うと、多少なりとも心に何か気に病むことを持っている人が、ぶたぶたに出会っているのです。この内に秘めた思いが、ぶたぶたというぬいぐるみに投影されているとも考えられるのだけれども、他の人にもしっかりぶたのぬいぐるみとして認識されている。どうも、このあたりの曖昧さに作品世界に入り込めなかった。 特定の誰かにのみ存在が認識できて、それで、ぶたぶたが実在したのか?それとも幻だったのか?どっちとも取れるような作品だったなら別に気にならないんだけど、不特定多数が認識しているのに、それが曖昧なままというのが、どうも受け入れがたいのだ。 これはもう、不思議を不思議で片付けることができない性格なのだから諦めるしかないのかな・・・。 しかし、物語としては面白かった。ぶたぶたと出会うことでリフレッシュして晴れやかな気分になる人たちの姿は、なんとも読んでいて癒される。それに、最後で一つに重なる物語は、ストーリー性十分で、読んでいて大変楽しめる。 たまには、こういう寓話も悪くないかもね。 |
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1月7日読了 |