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突然空から『ストロー』と呼ばれる壁が現れ、それに触れたものは全て「複製」されてしまう、という事態が起こった。その『ストロー』の中に閉じこめられた高校生たちの葛藤と愛憎、そして殺人事件。一種のクローズド・サークル内での事件と分類されても良いかも知れない。 で、内容はといえば、どっか上滑りな感が否めなかった。ここで扱われている自己の完全な複製、コピーというものは、人間のアイデンティティに関わる重大な問題なのに、それをさくっと通り越して、妙に纏めてしまっている印象がある。この問題はもっとつっこんで書かれるべきだったのではないか。 前半、割とそれについて書かれているのに、例えそれが『ストロー』の詳しい説明に付随するものだとしても、後半のどたばたにまぎれてその結論が回避されてしまったのではないか。そのあたりに不満が残った。 そして同じように、話全体としても印象が薄かった。パニック状況下でどのような行動を人間が取ってしまうか、ということもテーマにあったのかな、とは思う。でもその中で起こる殺人事件も、またその意外な真相も何もかもが特筆すべきところがなかった、ような…。ラスト近くになってあまりにもゴージャスに殺されまくって、意味あいが薄くなっているところもあるんだろうけど。 とにかく全体として、もう少し深くつっこんで書くか、あるいはもっと状況を最大限に利用したトリックとかがあってほしかった。 |
Quanさんの書評
複製症候群
SF的設定ではあるが、新本格というよりは、パニック小説に近い。
受けた衝撃がものすごい。人の存在というものの不安定さが、コピーというものをテーマに描かれる。「自分」というものが何かということを考えさせられる。「自分のかわりがいる」突き詰めて考えると、こんなに怖い状況もない。自分自身が無意味だと考えるのは、すなわち自己否定になってしまう。
結論としては、この登場人物の未来が気になるというところか。でも絶対に続きはでないだろうな。
評価☆☆☆☆☆
突然、空から落ちてきた異様な壁に閉じこめられてしまった高校生たち。彼らは、その壁から逃げ出すことは許されない。
なぜなら、その壁に触れると、触れた者とすべてが完璧に同じコピー人間が出来てしまうからだ。そんな閉じられた空間で、
殺人事件が発生する。犯人は誰か?そして、それはオリジナルの人間か、それともコピー人間か? SF的かつ大胆な設定で読者を楽しませてくれる西澤氏だが、今回の設定は、あまりにも強引で現実離れしている。 空から壁が落ちてきて、それに触れるとコピー人間ができてしまうなんて、あまりにSF色が強くて、すんなり受け入れられない。 だが、そこをこらえて読み進めるだけの価値は充分にある小説だ。 大げさにいえば本書一冊で、SF・ミステリ・ホラー・コメディ・恋愛・涙と6つの要素を一度に味わえるのだ。 殺人事件と謎解きがあるから、ミステリがメインなのだろうが、僕はホラーの要素を強く感じた。読後は、「怖かった」と 真っ先に思ってしまった。そして次ぎに、「これほどの設定を破綻なくまとめるとは、すごい人だな」と感じた。 クローン人間の是非について、などといった難しいことは考えず、ただ純粋に楽しんで読むといいと思います。 |
「複製症候群」 2000年6月8日 |
ストーリー 異形の壁に閉じ込められた高校生たち。だがその壁からは逃げ出すわけにはいかない。その壁に触れると、姿形、記憶や考え方まで完璧に同じコピー人間が出来てしまうからだ。そんな密室空間ででの殺人事件。犯人は誰?オリジナル人間か、それともコピー人間か! |
感想 密室物の殺人事件、という事になるのでしょうが凄い設定を思いつくものです。壁に触れると触れたときとまでとまったく同じ記憶を持った自分の複製が出来てしまう。これではどんなに壁を突き抜けたって必ず1人は自分が壁の中に残ってしまうのですから。自分の複製ができてしまった事で十分混乱しているのに(複製は自分が複製という事に戸惑うのですが)そこに殺事件が絡んでくる。正に西澤ワールドと言えますね。 ネタバレ感想 自分が1番好きだと気付いたときに自分がその古茂田先生を殺そうとしていた。一体どんな心境なんでしょう。分離した別人とは言え同じ考え方をしてしまうからもう一方がした事が理解できてしまったのでしょうね。そして殺されそうになっていながら、今度は自分を必至に生き返らせようとしている下石を見た古茂田先生はそれをどう思ったのでしょう。ストローの中で行われた殺人事件は複製による異常事体の中で行われた別次元の出来事と捉える事が出来るとしても、古茂田先生を下石が殺そうとした事と自己防衛の為に下石を古茂田先生が殺してしまったことはオリジナル同士の現実世界での出来事です。セツナにとってどうしても2人の心境は考え及ばない所にあるので結論は出ません。 |