麻弥さんの書評
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●「どすこい(仮)」京極夏彦[集英社]1900円(00/5/29)

今更という感じですが、やっと読みました「どすこい」。書くまでもないかもしれませんが、あの京極夏彦の小説すばるで連載していた「デブ」シリーズを一冊の本にまとめたもの。とにかく分厚くて暑苦しい装丁となっております。
とにかくバカな話。ノリとしては不条理小説に近いか。あまりに若い人だと、ギャグの意味がわからんような気がしますが。あ、私はけっこうウケました。特に最後の方の話ね。
単なるバカ話だけに終わらず、メタな展開が結構楽しかったり。「すべてがデブになる」の「入れるけれども出られない密室」というのはアイデアとしてなかなかおもしろいと思うのですが。
この短編集、ひとつずつがミステリ作品のパロディとなっていますが、内容はあんまり関係ないのが多いかな。でも、「脂鬼」の元ネタの小野不由美●「屍鬼」だけは絶対に本編の方を先に読んでください。パロの方を先に読んじゃうと、元の話がもうまともに読めなさそうだもん。
あと、国産ミステリ界の楽屋オチ的な部分も結構あるので、ある程度ミステリを知ってる方が楽しめるかな。
でもさ、ある意味このシリーズ、私にはホラーでした。ここ半年でかなり太っちゃってさ……そういう人間には「すべてがデブになる」は恐怖ですよ。こんな状況に追い込まれたら……食欲に負けちゃうだろうな、やっぱり…



hideさんの書評
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『どすこい(仮)』 京極夏彦(集英社)
笑い4.5点 0点 恐怖2.0点 総合4.5点
 「四十七人の力士」「パラサイト・デブ」「すべてがデブになる」「土俵(リング)・でぶせん」 「脂鬼」「理油」「ウロボロスの基礎代謝」の計7作からなる短編集。
 「すべてがデブになる」:簾禿げの中年作家・南極夏彦のもとに一通のファンレターが 届いた。その手紙によると差出人の持ち山で古墳が発見され、それに興味を持った科学者二人がその中に研究所を建て、 立て籠もったきり半年も音沙汰がないのだという。これを読んだ南極一行が、その研究所に行ってみると、 そこには、奇妙なコンピュータが置いてあった。そのディスプレイに並んでいる横綱力士型のアイコンをクリックすると、 「―すべてがデブになる」という文字が映し出された……。

 京極夏彦という人がますますわからなくなる短編集だ。
 本書は「小説すばる」に連載されていた6本に書き下ろし1本を加えた短編集だ。あいにく僕は、「小説すばる」を 読んでいなかったため、今回初めてその衝撃(笑撃)を受けた。今まで京極堂やら四谷怪談やらで築き上げてきた京極夏彦 というイメージを踏み台にしているからこそ、これほど笑えるのだろう。さらに数々の名著をデブ(お相撲さん)を題材にして ここまで破壊できるのも、京極夏彦だからこそだと思う。
 しりあがり寿さんの挿絵をはじめ、作家の年齢を感じさせるギャグの数々、そしてパロッた作家に対するコメントと、 帯にかかれたその作家諸氏のコメントなど、至る所に笑いが満ちている。
 読破したあと、脱力感と疲労が残るが、未読の方は、是非読んでもらいたい。あとは、京極先生の今後の作風に影響が出ない ことを祈るばかりである。

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