hideさんの書評
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『嗤う伊右衛門』京極夏彦(中央公論社)
興奮★★★☆☆ 笑い☆☆☆☆☆ 涙★★★★★ 総合★★★★☆
 この本は、鶴屋南北・原作の『四谷怪談』を、京極風に仕立てたものです。僕は、原作の『四谷怪談』のことは余りよく知りませんが、 おそらく、原作とは大きく異なっていることと思います。何しろ、怪談的ではないのです。怪談というよりは、むしろ恋愛小説・歴史小説・純文学 と言った方がいいと僕は思いました。京極氏は、どのようなジャンルのものとして書かれたのかわかりませんが、僕は、そのように感じましたね。

 京極氏は、ホントにキャラクターを書くのがうまい。登場する人物一人一人が人格を持ち、特徴的で、リアリティーがある。愛くるしい人は、ホントに愛くるしく、 憎たらしい人は、ホントに憎たらしい、と読者に感じさせる。作中の色狂いの性悪人・伊東喜兵衛など、ホントに憎たらしく、僕がその場にいたらたたき 斬ってしまいたいくらいに感じましたね。そして、京極氏は、タイトルを付けるのもうまい。『嗤う伊右衛門』とは、いかにも興味がそそられるではないか。 特に、「嗤う」と、わざわざムズカシイ漢字を使ったりするところがよいですね。

 内容は、一言で言えば、境野伊右衛門と民谷岩の悲しい恋愛物語です。伊右衛門は、大変真面目な浪人であり、今は大工をしている。岩は、ご存じの通り 疱瘡の後遺症か何かで、顔半分がただれ膿み、腰は曲がり、まるで老婆の如き姿になってしまった。そのような岩のところに、ある日、伊右衛門が婿入りする ことになる。
まあ、あとは読んでいただければわかると思います。他の京極氏の作品と異なり、厚さも字の大きさもちょうどよくで、結構読みやすいと思います。


麻弥さんの書評
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●「嗤う伊右衛門」京極夏彦[中央公論社](97/6/20)

京極夏彦の描く「四谷怪談」です。
感想は…だらだらと目眩坂を登っていたら、気が付いたら断崖絶壁にいた…とでもいう感じか。
夜が来ると、闇になる。江戸時代は照明が行灯位しかないから、闇との境界があいまいとなる。「あちら」に引き込まれそうな、そんな日常と隣り合わせの闇がひたひたとせめてくるような、そういう感じの怖さかなあ。
私は「四谷怪談」はラフストーリーしか知らないので、どのあたりまでが定石で、どこからが京極流なのかがわからないのがちょっともどかしかったです。うむむ、勉強せねば(^ ^;)。
すでに読了された方は、もしよろしければネタバレ感想を読んでください。


みはるさんの書評
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99/6/4  「嗤う伊右衛門」京極夏彦(中央公論社)

乱読の日々だ。それはともかく、京極氏の著書なのに、読んでなかったもの。図書館にあったので読む。四谷怪談のお岩さんの話、もともとの話を知らないのだが、多分ほとんど全て新しい話に作りかえられているのだろう。切ないラブストーリー。岩さんのイメージが普通のそれとは全く違って、好感が持てる。京極氏の視点(と私が思っているもの)は、人に対して優しいものがある。好きです京極、とここで告白してどうする。又市の存在がいい。誰かがどこかで言っていたのだが、作者は「お岩さん」という幽霊のイメージ=憑ものを、我々読者から落としたのだ。
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