この本は、鶴屋南北・原作の『四谷怪談』を、京極風に仕立てたものです。僕は、原作の『四谷怪談』のことは余りよく知りませんが、
おそらく、原作とは大きく異なっていることと思います。何しろ、怪談的ではないのです。怪談というよりは、むしろ恋愛小説・歴史小説・純文学
と言った方がいいと僕は思いました。京極氏は、どのようなジャンルのものとして書かれたのかわかりませんが、僕は、そのように感じましたね。
京極氏は、ホントにキャラクターを書くのがうまい。登場する人物一人一人が人格を持ち、特徴的で、リアリティーがある。愛くるしい人は、ホントに愛くるしく、
憎たらしい人は、ホントに憎たらしい、と読者に感じさせる。作中の色狂いの性悪人・伊東喜兵衛など、ホントに憎たらしく、僕がその場にいたらたたき
斬ってしまいたいくらいに感じましたね。そして、京極氏は、タイトルを付けるのもうまい。『嗤う伊右衛門』とは、いかにも興味がそそられるではないか。
特に、「嗤う」と、わざわざムズカシイ漢字を使ったりするところがよいですね。
内容は、一言で言えば、境野伊右衛門と民谷岩の悲しい恋愛物語です。伊右衛門は、大変真面目な浪人であり、今は大工をしている。岩は、ご存じの通り
疱瘡の後遺症か何かで、顔半分がただれ膿み、腰は曲がり、まるで老婆の如き姿になってしまった。そのような岩のところに、ある日、伊右衛門が婿入りする
ことになる。 まあ、あとは読んでいただければわかると思います。他の京極氏の作品と異なり、厚さも字の大きさもちょうどよくで、結構読みやすいと思います。 |