神薫さんの書評
『田中啓文』
集英社
「異形家の食卓」★★★★
クトゥルー神話風味の香る、グロテスク短編集。いやぁ〜気持ちいいほど気持ち悪い本だッ。そのグロ度は綾辻行人の「特別料理」をはるかに凌ぎ、梶尾真治「あぶきっちん」にも迫る勢いである。収録された作品全てに食事の場面が出てくるのだが、そのどれもがこれでもかと気色悪いのである。生理的嫌悪感の限界つっぱしる本である。ただし視覚的気持ち悪さ一辺倒ではなく、裏切り、虐待etc.あの手この手で読者をこの上なく不快にさせてくれる、ダウナー系ホラーなのだ。間違ってもグロ苦手な人は読んではいけない。食事制限のダイエットしたい人にオススメかもしれない(私は解剖学カラーアトラスの写真見ながらメシが食える人間なので効果無かったが、純真な方にはかなりの食欲減退効果が見込めると思う)。
「にこやかな男」どんなに罵倒されても笑みを絶やさぬゾエザル国外務大臣ニュルペグト・ジュサツの秘密とは?真相がわかった時、(わからんときでもじゅーぶん気持ち悪いのに)暗黒にまみれる気分に陥る。
「新鮮なニグ・ジュギペ・グァのソテー。キウイソース掛け」ヴァレンタイン・デー当日限りの特別料理。誰もが虜になる、謎の食材とは?正統派グロテスク料理譚!!私は刺身も苦手なほどナマモノがダメなので、これを出されても誘惑に負けない自信があるぞ。
「異形家の食卓1」とっても怪奇なのに、家族仲がよくてほのぼのなのがミスマッチで実〜に気色悪い。「同上2」展開は読めるがシュールな描写や良し。「同上3」これは、オニというか、×ニ…。
「オヤジノウミ」海上で救出された少年の、驚くべき話とは。「にこやかな男」にも出てきたバ……神がこれにも登場。言ってしまえばラヴクラフトの「×ンウィ××の×」なのだが、ハンパない不気味描写で楽しめる。
「邦夫のことを」この中では割りとフツーの話、かな…。
「三人」宇宙空間でグラグラする記憶。「星の国のアリス」に似た雰囲気のお話。
「怪獣ジウス」自分が自分でなくなる悲劇。
「俊一と俊二」やはりネタがわかってしまうけど、美しいお話。
「塵泉の王」ゴミ処理の秘密とは?ゴミにはじまり、ゴミに終わるゴミ御伽噺。
3月25日
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