「依存」 西澤保彦 幻冬舎 2000年7月18日
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ストーリー 安槻大学の白井教授の家で新築した書庫を見学するのと兼ねて大学教授連に絶大な人気のルルちゃんの誕生パーティを開く事になった。 しかし、驚く事に白井教授は再婚しており新たな教授夫人としてみんなの前に現れたのは何とタックの実の母親だった――。タックシリーズ学生編第5弾。 |
感想
ぼくには、実の母に殺された双子の兄いたんだ――。何とも衝撃的な謳い文句が帯に飾られていて、一体どんな話が待っているのかとワクワクして読みましたが、その期待を裏切らない壮大な物語です。ウサコの視点ということもあり、いままで脇役扱いだったウサコの心理にもスポットがあたり、充実した一作です。 ネタバレ感想 ディスカッションしている内に過去の記憶を歪曲して覚えていることに気が付き、真実を思い出す。何処となく「完全無欠の名探偵」を思い出す展開でしたが、大変面白かったです。前作は”娘と父親”という関係でしたので想像し難い部分も合ったのですが、本作の”息子と母”という関係は痛いほどに解りズシリと心に来ました。 ウサコの行動は、どう見てもタックを好きだと思えたのですが、真相はどうなんでしょう。ウサコは、タックが好きだったんだと勝手に解釈してます。お互いの気持ちを伝え合ったタックとタカチ、今後キャンパスではどんな関係になるのでしょう。多分今まで通りでしょうね。 |
タックとタカチの"酩酊探偵"シリーズ、「スコッチ・ゲーム」の次の話となる今作はハードカバーで発売されていましが、ついに文庫本化されました。
以前から仄めかされていた、タックと母親と"兄の死"の話です。
長編とはいえ、いつものようにアルコールを飲みながら「不思議な話」についてあれこれ素人探偵が推理を披露してゆき、それから真相らしきものが浮かび上がってくる…という構成になっていますが、全く関係ないように見えたそれらの事件が積み重なっていくことでタックが絡められていた「謎」の核心が浮かび上がってくる構図が見事でした。自分自身すら欺いてしまう人間の弱さが切なく、そしてその痛みを乗り越えてゆける強さが愛しい、そういう物語。このシリーズのキャラには愛着があるので、今回の話は堪能しました。
あとがきをみて、短編集「謎亭論処」が時系列的には後になっていることを知って、あわてて購入、再読しました。2年半前に新刊で出たときに購入して読んでましたが、あまり記憶に残ってなかったので。「依存」の直後の話はでてこないものの、少し先の未来、そしてもっと遠い未来の姿を垣間見ることができてほっとしました。