麻弥さんの書評
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●「Jの神話」乾くるみ[講談社ノベルズ](98/2/6)

あの、メフィスト賞の第3回受賞作品。帯には、大森望さんの「98年度ミステリ裏ベストワン、はやくも決定」と推薦文が書いてあります。このポイントは、「裏」でしょうね。たしかに、これは表には出てこれない作品じゃないかと(^ ^;)。
話は、隔離された全寮制女子校で、女生徒が連続して謎の死を遂げる。その時間の解決に乗り出すのは、「黒猫」という渾名の女探偵(美女)。「ジャック」という殺人者、死体から消えた胎児…というように、本格ティストがたくさんでてきますが、終盤で突然話の方向性がかわります。…いやあ、こうなるとは………しかも、ラストがああなるとは、途中でそれを見抜く人がいたら…すごいっていうより、変だよね(^ ^;)。私がもし途中でわかっても、この本についてだけは「途中で全部わかりました」とは絶対に感想にかけないです(^ ^;)。だって、ねぇ……
でも、この本って、講談社ノベルズからミステリとして出版されると異質ですが、●●●●書院とか●●●●●文庫とかだと別に違和感なかったもしれないですね〜(…うーん、これでネタバレになっちゃう(^ ^;)??)
途中までは「メフィスト賞にしては、結構まっとうだよなあ…」って思ったけど、読み終わった感想は、「やっぱりメフィスト賞」でした。
オススメかどうかというと難しいけど、個人的に楽しくなかったわけではないし、終盤はどちらかというと「開いた口がふさがらない」って感じでしたが………まあ、「トンカツ」よりはおもしろいんではないかと(^ ^;)。あと、「コズミック」に比べると、「ふざけんなっ!!」率は低いと思いますが。

セツナさんの書評
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『Jの神話』
−J-GIRLS MYSTERY−

講談社ノベルス 乾くるみ
ストーリー
 全寮制の名門女子高の生徒が子宮から大量出血して死に、いたはずの胎児が消えた。同じように変死した卒業生の姉、謎の言葉「ジャック」を遺し塔から身を投げた少女――桜の園に封印されたおぞましい記憶!陰惨な檻と化した学園で女探偵≪黒猫≫と一年生の優子に魔の手が迫る。
第四回メフィスト賞受賞。
読んだ理由
 第四回メフィスト賞受賞作品だから。
評価
熱中度 壮健たる雰囲気が最高。
キャラ ≪黒猫≫の生い立ちが気になります。
残留度 見事なラストにすっきり爽快。
衝撃 こんな展開をするとは・・・。
総合評価 荒唐無稽な展開に唖然としました。
感想
 全寮制で閉ざされた、隔離空間となっているミッションスクール純和女学院。生徒会長・朝倉麻里亜を学園のアイドルとして、崇めて奉る生徒会員と生徒たち。この舞台が、背徳ながらも純真で、淡く清楚な独特の雰囲気を作り出しています。そんな閉鎖空間で起こるレイプ事件と自殺。そして書き残された『ジャック』という謎の一言。ミステリの舞台としては、文句の付け様のない雰囲気ある設定です。
 それとときを同じく並行して書かれる、もう一つの事件。扼殺された夫と、大量の血を撒き散らして失血死した臨月の妊婦。夫婦を殺したのは誰?そして、お腹にいた筈の、胎児はどこに?犯人は何故、胎児を持ち去ったのか…。
 この二つの事件に、加わる学園のアイドル麻里亜に起こった、もう一つの切迫流産による、失血死と胎児消失事件。姉妹に立て続けに起こった胎児消失は、何を意味しているのか。
 この、すべての事件のキーワードとなる鍵を握っているのが、自殺した少女が書き残した『ジャック』という言葉。
 物語終盤で明かされるが、その正体は、なんとY型の染色体のみを持つ、新しい性別の男根型の子宮に生息する寄生生物。今まで作り上げてきた、陰湿で、まとわり付く様な嫌な雰囲気が一気に壊れてしまう、荒唐無稽さであります。正直、この正体にはがっかりした。せっかく釣り上げた独特の雰囲気と、複雑な事件、それに人工受精やキリスト教の教理などを交えて重厚に作り上げられた世界観が、台無しとなってしまったと思ったから。しかも、ジャックは実態を現し、少女たちに快楽を与え、性奴会(生徒会)などと、学園内で暴れ回っている。唖然としてしまったよ…。これはミステリなのか?何故こんな滑稽な作品にメフィスト賞は与えられるのか。不可思議極まりない思いでいっぱいになりました。
 しかし、その意味は最後まで読めば理解ができる。両性具有の悪魔や天使を例にだし、悪魔崇拝のサバドを挙げ、≪ジャック≫の正体を創世記のアダムとイブの寓話に例え、何故、中世ヨーロッパで教会が徹底的に弾劾して魔女狩りを行なったのか。この答えが≪ジャック≫の正体を、古代から存在していたように思わせ、妙に説得力がある。
 この結末にはビックリすると同時に、大変読み応えがあり、賞にも納得させられてしまった。見事な作品です。
  6月3日読了

神薫さんの書評
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「Jの神話」
 ファニーなファルスのファンタジー官能小説。確かにラストは誰にも予想できない着地をするのであるが、評価しない理由はJの出生が、分子生物学や発生学を学んだ身にはあまりにも受け入れ難いことだ。現実が強固に脳内を占拠しているがために、フィクションに拒絶反応を起こしてしまうのである。因果なことだ(同じ理由で楽しめない小説がわんさかあるのだ)。頭が柔軟な人はこの設定を楽しめるかもしれない。真相を知ると、この作品はホラー調にするよりギャグ調の方が合っていたのでは、なんて思ったりして(たとえるなら、映画キラーコンドームみたいに)。女性が快楽の前にはいとも弱き存在として描かれているのも不愉快であった。勉学も誇りも信仰もセックスの前には無力なのか。エロの常道といえば、それまでであるが…。しかし、コチンコって、トンデモ(以下自粛)。
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