|
『チョーモンイン』シリーズ4作目。でも番外編で、今までのお馴染みのキャラはあまり顔はみせません。能解警部がかなり重要な役割で出てきてはいるけど、結局は脇役だし。そのまま独立した話として読んでもあまり違和感はないでしょう。一応、超能力にからんだ話なので『チョーモンイン』シリーズに入れたのかな。しかしこの話はシリーズ最終作への重要な伏線になっているらしいですが、でもこれだけではさっぱりわけが判らない…何だか恐ろしげな予言がされていてちょっと不安。 でもこの話そのものもかなり怖かったです。理性的な狂気、というのはこういうものなのかと読んでいて薄ら寒くなりました。 主人公は連続殺人犯なのに、社会性もあって友人もいないこともなく、仕事もしているし(しかも警察官)今度結婚することにまでなっている、『普通』の人間。なのに殺人犯で、殺人すらも日常の風景に取り込まれているあたりが怖かった一つのポイントでした。 通常殺人というのは非日常で、『嵐の山荘』なんてそのあまりに分かり易い具象化とも言えるのですが、そうやってどこかで殺人行為を差別化したがる傾向が、少なくとも私の中にはある。それを楽々乗り越えて、殺人すらも普通の出来事、その傍らで警察官として勤務して殺人を思い出しながら能解警部と歓談している主人公が、ヘンじゃなくてぞっとしました。こういうのが一番怖いかも…。 そしていつものように延々語られる西澤的理論。このあたりについてはネタバレで感想があるので、こちらからどうぞ。でも西澤っていつも語りたがるよね。ときどきこの人は、小説そのものではなくこの語りを読んで欲しくて小説を書いているんではなかろうかと思う…。 相変わらずアクロバティックな終わり方で、強引ながら上手く纏めてました。由美が一体どうやって奈蔵を受け入れたのか、理解できないけど。それ以上に、その子が嗣子ちゃんの敵になるってどゆこと?赤子のまま戦う訳?っていうか今回は嗣子ちゃんが出てこなくて寂しかったです。次はまた嗣子ちゃん本人が登場するらしいですが。にしても、随分とゴージャスに人が殺されている話だ…と読み終わってつくづく思ってしまいました。ドス暗かったし。 |
Quanさんの書評
夢幻巡礼
・・・・・・・・・・・・・・・。
ええと、私の中で西澤作品の中で一番衝撃を受けたのは、最初に読んだ「幻惑密室」だったんだけれども、この作品のインパクトはそれを上回るかもしれない。
今までこの作者が挑戦してきた要素。すなわち、SF新本格としてのミステリ的面白さ、非SF新本格系の長編に込められていた「人間の恐ろしさ」の双方が、今までにない形で融合し、この作品の中で発揮されている。しかも、その成果が、人気シリーズ「神麻嗣子の超能力事件簿」の完結編の重要な要素であるというのだから、ファンである私にはたまらない。
外伝ということで、嗣子ちゃんやダブル匡緒の登場はほとんどない、と聞いていてがっかりした覚えがあるのですが、そんなこと言ってられませんでした。こいつに、いや、○○○に、嗣子ちゃんは勝てるのでしょうか(まあ、作者がハッピーエンドをめざす、と言ってはいますが、何か心配です)。
「聯雲荘」というところで事件が起こったと言うことに関しても、なにか作者の、並々ならぬ思いを感じる。第一回鮎川賞最終候補作「聯殺」。「仔羊たちの聖夜」の元ネタに使われたあの作品の一字。なにか、特別な思い入れでもあるのでしょうか。
とにかく、はやく次の作品が読みたいです。でもできればほんわか明るい話を(笑)。
「あとは能家匡緒だけだ」
評価☆☆☆☆☆