Quanさんの書評
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解体諸因

 匠千暁シリーズ第一弾。「バラバラ殺人」をテーマにした連作集。
 匠千暁という私のお気に入りの探偵の、その「妄想推理」ぶりがすごい。動機の面に関して「気にくわない」という人がいるようだが、私的には全く問題ない。
 お気に入りは「解体守護」。全編くらいムードが漂う中、唯一のほのぼの作品。今まで読んだ推理短編の中では、北村薫の「六月の花嫁」(「夜の蝉」収録)と並んでもっともお気に入りのものの一つ。
  評価☆☆☆☆☆
セツナさんの書評
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「解体諸因」
西澤保彦 講談社文庫

2000年7月21日
ストーリー
タックこと匠千暁が活躍する全編バラバラ殺人事件を扱った短編集。人気シリーズ一作目。タックシリーズ社会人編第1弾
「解体迅速」
あまりに暇なのでいつでも独りアパートにいそうな千暁を尋ねたヤスヒコ。千暁は相変わらず殺風景な部屋で古新聞を広げていた。その記事は 昨年起きたバラバラ殺人事件のものだった。そこで二人はバラバラ事件の真相を看破しミステリィ小説を書いてやろうと酒の肴に推理を始めた。
感想  自分も被害者と見せかけて捜査上から目を反らす。ちょっとありきたりで平凡ですね。しかし、事件はどうでもいいんです。後にヤスヒコこと”西澤保彦”がシリーズに登場する為の複線なのです。現在先生ですが、この事件の推理を元に作家デビューしたと言うエピソード付きで(爆)なんて、ありえませんね。

「解体信条」
辺見祐輔が担任するクラスに在籍する双子、小菅麻紀子と亜紀子の様子が最近おかしい。話を訊いて見ると麻紀子のボーイフレンド、川村正樹が三十四個にも切断されたバラバラ殺人の容疑者の1人として疑われていると言うのだ。
感想  指一本にいたるまで細かく切断したのは握られていた念書を回収する為。切断した手首を燃やしてしまったり地中深くに埋めてしまったほうが楽な気がしてしまいますが、解体を題材にしているのですからこのツッコミは無効ですかね。

「解体昇降」
マンションのエレベーターに八階から載った女性が一階に着くまでの16秒間に全裸でしかも首と左手足が切断されていた。 八階、一階共に目撃者もおりしかも途中でエレベーターが止まった形跡も無い。一体16秒間に何があったのか。
感想  アリバイを証明する為に閏年と使うとは考えましたね。外国ではサマータイムや国内時差などのトリックがありますがそれを日本でやってしまう発想が凄いです。ここに来て運ぶのが重かったからと言う単純な動機の切断理由ですが何よりもこれが一番分かりやすいです。

「解体譲渡」
辺見祐輔がお見合いをする事になった。その相手、藤岡圭子に何処か見覚えがあると思ったら、堂々と、むしろ見せびらかす様にエッチな雑誌を立ち読みしているサカワ書店で会う美女だった。その事に恥じていると圭子はエッチな雑誌について質問をしてきた。なんでも100冊近くエッチな雑誌をまとめて買っていった五、六十代の女性を目撃してと言うのだ。
感想  この話は電車の中で読んでいたのですが恐らくボアン並にだらしない顔で読んでいたことでしょう。いかにもボアンらしい失敗談で面白いです。 100冊のエッチな雑誌。これがバラバラ殺人に結びつくなどは西澤ワールド万歳な推理で好きです。

「解体守護」
タックがまだ、学生時代のエピソード。一緒に食事を取っていたタカチが「一緒に問題を解いてくれたら美味しいものを奢ってあげてもいい」と言い出した。家庭教師をしている家でクマのぬいぐるみの腕が切り落とされているのが見つかった。しかもその翌日その腕が血の付いたハンカチで固定されていたというのだ。
感想  タカチが随分としおらしく感じました。この時点ではまだ性格が確立されていなかったのでしょうか。それともタックがタカチと呼んでいるので「依存」以後の話とも取れますのでタックの前ではこうなのかな?等と関係無い所を妄想して読んでしまいました。

「解体出途」
傍若無人な叔母、沢田直子に呼び出されたタック。取り付く島もないままに、娘の香里と若林徹の結婚を止める為に若林と話を着ける様、住所を書いたメモと共に押し付けられてしまった。頭に来ながらも指定された時間に若林の家に行くと部屋中が血痕に染まっていた。
感想  う〜ん。殺害現場を誤認させる為に両腕を解体して血を撒き散らしたとありますが、切断された腕にそれほどの血液が残っているのかと考えてしまいますが、そんなことよりも凄い叔母さんが出てきましたね。寝たきりになった旦那は見限って離婚したり娘の相手を寝取ったり、凄すぎます。

「解体肖像」
タックが学生時代のバイト先「アイ・エル」で日銭を稼いでいたら常連の小菅亜紀子が姉の麻紀子を連れてやってきた。二人は店に張ってあるポスターに気付き、そのポスターにまつわるエピソードを話してくれた。何でも何度貼り直しても写っているモデル女性の顔が切り抜かれて新しいポスターを作ったというのだ。
感想  特に取り留めの無い話。タックが随分軽いキャラに見えますね。

「解体照応 推理劇『スライド殺人』」
首無し死体が発見された。次に発見された首無し死体には昨日殺害された被害者の頭部が置かれていた。そして第三の被害者の側には二番目の被害者の頭部が――。連続首無しバラバラ殺人舞台劇。
感想  劇場にいたらここで笑いが起こるな。などと考えながら読んで、普段の小説とは違う目線で読めました。色々考えるものです。

「解体順路」
中越正一と名乗った男がタックに向かって「ふたつの死体の首を切断し、たがいにすげ替えてしまう‥‥」と、仮名を使ってだが、実在の事件の話をしだした。現職刑事が一般市民に話す内容では無いと思ったのだが、タックは話を聴いた。
感想  散々書かれてきたバラバラ事件が一つの事件の絡まって行く。連作短篇集だったんですね。数多くの人達が登場してきて混乱しますが、 ラストの1行が綺麗です。けど、この犯人は何故にタックを知っていたんでしょうか。



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