麻弥さんの書評
HPはこちら Books by 麻弥


●「今昔続百鬼 雲」京極夏彦[講談社ノベルス]1150円(01/11/08)
雑誌「メフィスト」に連載されていた、【多々良先生行状記】をまとめたもの+書き下ろし1編です。多々良先生も京極堂ファミリーの一員。「塗仏の宴 宴の支度」に京極堂の知り合いの妖怪研究家として出演しています。対談集「妖怪馬鹿」に出てくる多田先生がやはりモデルなんでしょうか?
このシリーズは「冒険小説」と銘打たれてますが、在野の妖怪研究家もとい「妖怪バカ」な多々良先生とその相棒で良識は少しはある(?)沼上が旅の途中で不思議な事件に遭遇し、本人たちはなーんにも推理せずに妖怪の話に夢中になってたら、なぜか事件は解決しちゃった…みたいなバカコメディです。
いやあ、これがおもしろい。あのふたりのバカっぷりが微笑ましくて。ネタの作り込みも凝ってるし、さすが京極さんですな。
それでいて、村社会の崩壊という隠れテーマを押しつけがましくなく考えさせるあたりもうまいし。
ちなみに帯にあるとおり、あの仏頂面の「黒衣の男」も書き下ろしの最終話に出演。相変わらずカッコいいです。
それにしても、京極堂シリーズの本編って、もう3年でてないんですね。京極夏彦さんは他の仕事もたくさんやってるから順番待ちなんでしょうが… 一番読みたいのがソレだからなあ。はやく書いてくれないかしら。


セツナさんの書評
HPはこちら 一瞬の憶念


『今昔続百鬼―雲』
講談社ノベルス 京極夏彦
感想
 
京極堂シリーズのサイド・ストーリーとしては、榎木津礼二郎が縦横無尽の限りをつくす『百器徒然袋−雨』が発表されているが、話の骨格としては勝手な振る舞いを行う稚気な男に翻弄される者の視点で物語が進むという同じ体裁を持っている。サイドストーリー共通の体裁になるのかしらね。まぁ、この骨格は嫌いじゃない。
 この二つの作品の大きな違いはといえば、やっぱり
軸になる人物だよね(笑)。
 多々良センセイ…妖怪談のみに盲目な小太り、基い大太りなオヤジだもんな(笑)。
 同じ稚気な行動をする人物でも、榎木津とはビジュアル的にも似つかない。比較することすら失礼に当たる位に違いすぎる。
 それに、京極堂と同じ妖怪通だから薀蓄も饒舌とまでは行かないけれど、語ることができるので京極堂不在でも物語が成立できる。似て非なる作品というのでしょうか。
 そして、何よりの違いが、
妖怪を精神論を中心に認識能力で論じる京極堂に対して、多々良センセイは、画図に書かれた妖怪に含まれている思想や韻など時代や土地といった風俗を読み解いて行く傾向が強い。同じ石燕の絵でも色々な解釈を提示できるなんて、作者の造詣の深さを思い知らさせるよ。

 それにしても、
ふくやまけいこ氏の挿絵は何故に含まれているのだろう…。本書一番の謎だな(笑)。
  2月24日読了

戻る