Quanさんの書評
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「虚無への供物」(講談社文庫)中井英夫

  小栗虫太郎『黒死館殺人事件』、夢野久作『ドグラ・マグラ』とともに、推理小説史上に残る“三大奇書”のひとつ。おそらく最もミステリらしいミステリにして、同時にアンチミステリでもある。
 ……こういうのがアンチミステリというのか。言葉はよく聞くし、そうだといわれる作品も読んだことはあるのだが、今回初めて言葉の意味を実感した。論理の構築と崩壊。素人探偵たちの推理談義に、奇妙な暗合と“虚無への供物”。色彩を帯びた登場人物たちに、章毎にめまぐるしく入れ替わる現実と推理による結末。「どんなデータからも筋道だった推論は導き出せる」……見事の一言につきる。まあ、トリックに関してはいささか気にくわないところもあるが、それを導き出す過程が楽しい。
 『ドグラ・マグラ』も“きちがい”だったが、「狂気とは理性がなくなった状態ではない。理性以外の何物もなくなった状態だ」という言葉に従えば(たしか「妖魔夜行」のセリフ)、この『虚無への供物』は狂気のミステリといえるだろう。(……なるほど、登場人物のいささかわざとらしい推理談義は、あの結末のための読者に対する伏線だったのだな……)
 あ、そうそう、別に読むつもりもないからいいんだけれど、海外古典のネタをばらしているのは勘弁して欲しかった。にやりとする部分も多かったが……。
評価☆☆☆☆☆

hideさんの書評
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『虚無への供物』 中井英夫(講談社文庫)
笑い1.0点 1.5点 恐怖0.5点 総合4.5点
 氷沼家初代当主がアイヌ狩りをした祟りのせいか、それ以後の氷沼家の人間は相次いで無惨な死を遂げている。 祖父の光太郎は函館大火で焼死、長女の朱美は広島の原爆で爆死、そして長男と三男の両夫婦は、昭和29年の洞爺丸沈没事故で水死。 そして、氷沼家に残っている蒼司・紅司・藍司そして橙二郎の4人のもとにも、死神が訪れようとしていた。

 完成まで10年を費やしたという1200枚の超大作。著者自ら、本書をアンチ・ミステリー、反推理小説といっているが、 僕には何をもって「アンチ・ミステリー」と呼ぶのかよくわからない。読んでみた印象では、最近多い「新本格ミステリ」に近い小説だと 感じた。ただし、雰囲気や重厚さ、内容の濃さなどは、「日本三大アンチミステリー」として、長年読み続けられているだけの説得力はある。
 内容は、密室と死体→推理発表会→密室と死体→推理発表会→以下続く、といった感じである。非現実的なものから論理的なものまで、 様々な推理が展開され、同時に様々な知識――薔薇・五色不動・シャンソン・麻雀・時事問題・不思議の国のアリス等々――が盛り込まれている。
 新世紀の1冊目として読んだのだが、何かそういう読み始めるきっかけがないと、なかなか手を出せなかったのだ。でも、読んでみると、 思っていたよりは難しくなくて読みやすかった


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