hideさんの書評
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『メルカトルと美袋(ミナギ)のための殺人』 麻耶雄嵩(講談社ノベルス)
笑い★★☆☆☆ ★☆☆☆☆ 恐怖☆☆☆☆☆ 総合★★★☆☆
 「遠くで瑠璃鳥の啼く声が聞こえる」「化粧した男の冒険」「小人間居為不善」「水難」「ノスタルジア」「彷徨える美袋」「シベリア急行西へ」の計7作からなる短編集。
 「水難」:推理小説の〆切が迫った美袋(ミナギ)は、プロットと涼を求めに鄙びた旅館にやってきた。そこで、美袋は、セーラー服を着た少女の幽霊を見てしまう。女中にそのことを話すと、10年前、女子中学の修学旅行でこの旅館が使われたときに 裏山が土砂崩れを起こし、多くの生徒が生き埋めになったのだという。そして、そのことを聞いた翌日、古びた土蔵で、2人の女性の死体が発見される。
 「ノスタルジア」:暇を持て余したメルカトル鮎が犯人当て小説を書いた。そして、半強制的にその小説の犯人を当てなければならなくなった美袋。2重の密室の中で後頭部を撃ち抜かれている死体という、ありがちな設定だった。しかし、そこはメルカトルが 作った小説だけあって、一筋縄ではいかないのだった。

 ん〜、いまいち。良くも悪くもフツーの推理小説という感じがした。まあ、短編だから既読の長編3作と比べてはいけないかもしれないけれど、その3作と区別を付けるためにも★3つにした。今回は、メルカトルの悪魔的な性格と、そのメルカトルに翻弄され、彼に殺意まで抱いてしまう ワトソン役の美袋、という図式がよく出ていた。メルカトルは、解決のためなら犯罪まがいのことまでやってしまうみたいだ。例えば、番をしている警察官にクロロホルムを嗅がしたり、解決のために暴行・誘拐まがいのことをしたり。かなり型破りなキャラだ。
 これでしばらくは、麻耶雄嵩は、読まないだろう。


みはるさんの書評
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7月24日 「メルカトルと美袋のための殺人」 麻耶雄嵩(講談社ノベルス)

私は長編にむかない、と自分で言っているとおり、メルカトルが速攻で事件を解決していく。そのトリックとかは、私の頭はついて行かなかったのだが、なんとなくメルカトルひいては作者の良いように弄ばれているような・・・。でもメルのキャラクターがあれだから、それはそれでおもしろいけど。それにしても、美袋くんって不憫な奴。ワトソンが探偵を「殺してやる」とは。メルって主役のくせにほんとに悪い奴。

神薫さんの書評
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「メルカトルと美袋のための殺人」★★★★★
 この作者の小説は、読んだ時から徐々に世界のイメージが深く静かに潜行し、気づいた時には増殖しているウイルスのように、折につけイメージが脳裏によみがえる。不可解なことの多い長編に比べ、短編集である本書はずっと現実寄り。シニカルな台詞、理屈っぽい掛け合いが楽しくて素敵。しかし、銘探偵メルくんのその後を「翼ある闇」で知ってしまっているがゆえに、バッドで玲瓏なメルくんを読むにつけ、堕天使として地に堕ちる以前の、天使長として輝いていた頃のルシファーを見ているかのような切ない想いにとらわれる。
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