Quanさんの書評
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「なつこ、孤島に囚われ。」(祥伝社文庫)西澤保彦

 祥伝社文庫15周年記念書き下ろし作品群の中のひとつであり、雑誌「小説推理」連載中の『両性具有迷宮』のパイロット版……だそうです。
 百合小説家な御姉様、森奈津子が、見知らぬ女に拉致監禁されて孤島に閉じこめられた。向かいの小島では死体が発見され、いったい何で……というのがメインストーリー。主人公であるところの森奈津子御姉様を始め、実名で小説家がでており、「ああ、野間美由紀ならこういう推理をひねり出すことも出来そうだ」といった楽しみもある。ちなみに「中身は女」と断言されてしまった牧野修と倉坂鬼一郎の両先生はいかがなもんでっしゃろ。
 推理小説としては、西澤保彦お得意の妄想推理をかさねる楽しみと、意外な事実による驚きがメイン。中編の形ではあるが、「麦酒の家の冒険」と似たような小説になっている。(長さの問題で、あれほど酔えなかったけれど) あと官能小説としても読める(笑)。
 次は……12月のチョーモンインシリーズの短編集か。
評価☆☆☆☆

麻弥さんの書評
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●「なつこ、孤島に囚われ。」西澤保彦[祥伝社文庫]381円(00/10/31)

これまた祥伝社文庫の書き下ろし中編、「無人島」テーマの作品。
SF設定のミステリでお馴染みの西澤さんですが、今回はバイセクシャルでお笑いレズビアン小説作家の森奈津子が主役のバカミステリ。
奈津子は気がついたら無人島の豪華な別荘の中に一人いた。快適な虜囚生活は、隣にある島での殺人事件で終りを遂げたが…
動機の部分がなんだかなーと思いつつも楽しく読ませてもらいました。でもこの小説には主役の森奈津子をはじめとして、実在の作家さんが出演していますが、みんなあんな感じなんですか?…というか、倉阪さんが黒ネコのぬいぐるみを持ち歩いているのかが知りたいものです。


セツナさんの書評
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「なつこ、孤島に囚われ。」
西澤保彦 祥伝社文庫
2000年11月6日
ストーリー
 異端の百合族作家、森奈津子は、見知らぬ女に拉致され、離れ小島に監禁された。だが、意外にも上機嫌だった。紺碧の海は美しく毛蟹は食べ放題で、まさしくパラダイス。彼女はこの島を<ユリ島>、向かいに見える島を<アニキ島>と名づけ、誘拐を満喫していたが一週間後、アニキ島では死体が発見された。
400円文庫テーマ競作「無人島」四作品
感想
 本の薄さと、実在の作家が何人も登場してくるのが、お遊び的な雰囲気を出していて、気楽に読める作品に仕上がっています。しかし、こんな作品でも人間関係がドロドロしている…。これはもう、
西澤氏の個性として受け止めなければならないのかな。

ネタバレ感想
 
「無人島」というテーマを元に描いた作品が、これとは驚きました。無人島に人が潜んでいるとか、仲間内で殺人事件が起きるが、無人島で逃げ場がない、という話ではない。この辺りのアイデアが郡を抜く発想です。
 囚われて連れてこられたのは小島。しかし、連れてきた犯人は居ず、冷蔵庫には十分過ぎるほどの食料がある。監禁状態ではあるが、不自由ではない。そして、窓から見える同じような島には人がいる。一人だが孤独ではない。無人島にいながら、世間と遮断された逃げ場のない緊迫感という物が一切ありません。読み終わって、こう内容を並べてみると、無人島に奈津子をわざわざ連れてきたのに、おかしい気がします。犯行の理由が見えてきません。その通りで、そこには犯人側でのトラブルによる変更が成されている。
 犯人像も凄いですね。百合族作家の奈津子の妄想と小説の構想に加えて、犯人依羅正徳の変態性癖。悶々とした描写が続くのは、とてもエロティックでバカらしくて呆気にとられてしまいます。

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