永田さんの書評
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念力密室!/西澤保彦

『チョーモンイン相談員(見習)』神麻嗣子シリーズの初短編集。ここで初めて嗣子ちゃんと作家保科匡緒と能解警部の出会いの事件が出てきます。全部で5つの密室が構成され、それが全て『超能力』で施錠されたものだった----という、それをいっちゃあおしめえよ、な話てんこもりなのですが、それでも話は「どうやって」密室は構成されたか、ではなく「何故」「誰が」密室を構成したか、という部分の謎に絞って展開していきます。
超能力、という言葉だとミステリっぽくないのですが、そこがどっこい見事なまでの緻密な論理展開で上質なミステリに仕上がっています。短編なので、たいていがこの論理に費やされていて、読んでいて少し疲れることもありますがそれはご愛敬。読み進むたびに嗣子ちゃんと保科さんと能解警部の関係も微妙に変化していっていて、それもまた読む楽しみの一つです。
『念力密室』がこの三人の出会いの事件。…事件はとにかくとして、嗣子ちゃんてばこんな酷いことを保科さんにしていたのね。怯えるわけだわ保科さんも。能解警部もまだ、ピリピリした敏腕の警部だし、後からこういうのを読むと「後でどうなるのかも知らないで…」とほくそえんでしまいますね。読者の特権。この事件は、動機に不確実性があるような気がしてちょっと腑に落ちなかったです。しかも一瞬でそんなこと思いつくのか、ってそれこそそれを言ったらおしまいか。
一番面白かったのは『鍵の戻る道』でしょうか。これもちょっと被害者の行動に不可解な部分もありましたが(いくらなんでも不法侵入についてくるかね。惚れてたとしても)、謎解きが鮮やかで、しかも犯人がゲスだったので楽しめました(オイ)。
保科さんの前妻聡子さん初登場。こういうさばけた女の人は好きだなあ。んでもってここへきてもてまくりな感じの保科さん。どこまで本気か判らないけど、精々上手く立ち回って二度愛想尽かされないようしろよ、と心で密かなエールを送りました。
そして気になる『念力密室F』。こ…これは何なの。何が言いたいの一体…モモちゃんがどうしたのー。多分ラストへの伏線なのでしょうが、いきなりこんなものを出されても判らない。どっちが夢なのか判らないオチも怖いし、まさかこのシリーズのラストはドラえもんオチじゃないでしょうね。だったら許さんぞ…。


hideさんの書評

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『念力密室!』 西澤保彦(講談社ノベルス)
笑い1.0点 0点 恐怖0点 総合3.5点
 「念力密室」「死体はベランダに遭難する 念力密室2」「鍵の抜ける道 念力密室3」「乳児の告発 念力密室4」 「鍵の戻る道 念力密室5」「念力密室F」の計6作からなる連作短編集。
「念力密室」:ミステリ作家・保科匡緒が、ある日アパートに帰ると、そこに 見知らぬ男の死体があった。しかも、玄関は鍵だけでなく、内側からチェーンまでかかっていた。必然的に、部屋の主である 保科が疑われることになるのだった。 神麻嗣子が初登場する作品。

 <神麻嗣子シリーズ>の3作目。といっても、「念力密室3」までは、前作の『実況中死』よりも前の事件の話である。 特に、1話目の「念力密室」は、神麻・保科・能解が出会うエピソードを描く、神麻嗣子のデビュー作なのだ。ただ、 どういう順序で読んでもそれほど不都合はないと思う。キャラクターをより深く味わい人は、著者の指定した順に読めばよいと思う。
 今回は、全編サイコキネシスを使った密室物だ。普通に考えれば、サイコキネシスで密室を作るなんて反則だと思うが、 「なぜ密室にする必要があったのか?」ということにミステリの重点が置かれているので問題はない。
 本書のあとがきで、三人の関係の行方はいずれ完結させると宣言している。そして、それは多くの読者が予想しているとおりの 結末になるといっている。まあ、僕でもここまでシリーズを通して読めば、「ああ、最後はこうなるな」というのがわかった。 意外な結末というのもよいが、予想した結末をどれほど面白くしてくれるだろうか、と待ち望んでいるのもよいものだ。


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