Quanさんの書評
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「僕らは虚空に夜を見る」(徳間デュアル文庫)上遠野浩平

 ある普通の高校生、工藤兵吾。彼の日常に突如浸食してきたもう一つの“現実”とは?
 なにかブギーポップの一巻目を読んだときのような感触だ。ものすごく面白い、というわけではないのに、何故か続きが気にかかるという感触。実際ブギーポップは「VSイマジネーター」からファンになったのだし。ネーミングセンスも何か微妙に「違う」と思えてしまう。「殺竜事件」に比べれば、期待していなかった分余程楽しめたのだが……。
 ストーリーは「ネタばれ」してしまうのでかけないが、誰もが思いつくが、誰もが思いつかないような、そんなストーリー。思うにこの作者、いろいろな話を自分なりに消化して、あの独特な語り口に転化させるのがうまいのだと思う。オリジナリティとは異なる何かで形作られた物語。
評価☆☆☆☆

麻弥さんの書評
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●「ぼくらは虚空に夜を視る」上遠野浩平[徳間デュアル文庫]590円(00/8/31)

「ブギーポップ」シリーズの上遠野さんの新作。読みきり。現代高校といつともしれぬ時代の宇宙空間での戦闘を舞台にした物語で、SFティストが強いです。
兵吾はケンカっぱやく、クラスから少し浮いているが、平凡な高校生…だったはずだった。ところが気がつくと、広く暗い宇宙に放り出され、よくわからない「敵」と戦わなければならないハメになっていて…
正直いうと、「殺竜事件」と「冥王と獣のダンス」は物足りないものがあったんですが、この作品はいいっ!! ブギーポップの初期の頃の、どこかとんがった感じが残っている。ある意味、「ブギーポップは笑わない」を別の角度から…もっとわかりやすく…描いた話であるかもしれない。
この基本設定自体はアニメや映画にも先行作品はあるし、よく使われるモチーフだけれども、味付けの仕方がいいんですよ。退屈に満ちた、平凡な日常世界も実に危ういバランスの上に成り立っていて、向こうの世界とは薄皮を隔てたようなものですぐにひっくり返りそうな、そんな感じを描き出すのがうまいなあ。元の景瀬が感じたみたいなどうしようもない虚無感、若くて自分を持ち余しがちな頃に持ったことある人だって少なからずいるんじゃないかな。青臭いといえばそれまでだけど、私は今でもそれを引きずっているところあるので、今回の話は魂を直撃、でした。
この作品で、上遠野さんが書いた話で唯一「ブギー」と繋がりのない話だった「冥王と獣のダンス」とも「虚空牙」で接続しましたね。またこの話はブギーとも繋がりがあるし→最後の方の「虚空牙の仲間のひとり」というのがエコーズってことでしょ?←、意識してつなげてるんじゃなくて、書いていくうちに勝手に繋がっていくものなのかも。
でも今回の作品で、また上遠野さんに惚れなおしました。「殺竜事件」がイマイチ気に入らなかった方も、こっちは気に入るかもしれないし読んでみてください。ただ、まだブギーポップの方を読んでないなら、やはり最初は「ブギーポップは笑わない」からはいることをオススメします。


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