Quanさんの書評
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「私は虚夢を月に聴く」(徳間デュアル文庫)上遠野浩平

 SF。
 ……読後まず最初に思ったのが「SFっぽいなあ」ということ。ストーリーが展開していくうちは緊張感があるんだけれど、最後の最後でなんかチープさを感じる。無理矢理“ナイトウォッチ”を出す必要があるのだろうか。いや、ヒーローものだと断言されたらそうか、ということなんだろうけれど。でもなんかなあ。
評価☆☆☆+

麻弥さんの書評
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●「わたしは虚夢を月に聴く」上遠野浩平[徳間デュアル文庫]590円(01/08/21)

「ぼくらは虚空に夜を視る」の続編…というのはちょっと違うかな、同じ世界でのお話。
…すばらしい。「信者」だとか「厨房」だと言われてもいい!! 私は上遠野浩平の物語を、世界を、文章を愛しています。大好きです。とても。
このシリーズを一言でいうなら、「マトリックス」…で終わってしまうのですが。平凡な日常生活は実はプログラムのまやかしにすぎない。実際には虚空牙という正体不明の敵を相手に絶望的な戦いの日々を送っている…とストーリーだけ書くと陳腐に思えるかもしれませんが、でも上遠野浩平の現実と非現実のいつでも裏返りそうなバランスの危うさの描き方がすごくよくて。生も死も、日常も非日常もボーダレスで等価。ここではないどこか。無くしてしまった自分のなかのかけら。自分のいる世界に違和感を覚え、世界に尖った足場の上でかろうじてバランスをとってるようなモロさを感じてるような人間にはたまらないというか。
今回の話の舞台は月。謎の少女と、彼女のことを忘れてしまった平凡な少女の物語。細かい瑕はもちろんありますが、なんとも上遠野浩平らしい「とんがった」感じがとてもよいのです。前作もそうだったけど。このシリーズに対するその人の評価は、その人が上遠野浩平を「わかる」かどうかがはっきりする「踏み絵」になるんじゃないかなあ。「ブギーポップ」シリーズは別に上遠野浩平がわからなくても楽しめますから。「わかる」ことは別に偉いことではないけれども、ブギーポップがなぜライトノベルとして売れたのかを理解する上でのキーワードになるかなあと思います。あれが売れたのは、ティーンの子には上遠野浩平が「分かる」子が結構いたからではないかと私は考えています。若い子が持つ不安だとか希望だとか夢だとかそういう隙間と上遠野浩平の物語は共鳴しやすのでは。このあたりはもっと具体的な話をしてみたいんですが、どうも言語化しづらいんですよ。私の、形にならないものに名前を与える能力が低いという問題もありますが。
私には魂に共鳴するお話なんですが、一般的にオススメかというと難しいなあ。上遠野浩平をまだ読んだことのない人は「ブギーポップは笑わない」から。
ネタバレ感想→前作が裏「ブギーポップは笑わない」だとすれば、今回は裏「VSイマジネーター」(全然裏じゃない…) だとすれば三作目はぜひ裏「パンドラ」にしてくれっ!!…って無理だって。 ウサギロボットのイメージだとかはなかなかよいですな。月に降る雪とか、漂うピンク色の霧とか。あとこの物語の世界では、結局本当に生きているのは彼女ひとりで、あとは全部プログラムなんですよね… 心は何に宿るかとか、現実とは何かとかいう話になったらそうとは限らないけども。でもあの、なんだかよくわからないけれども取り返しのつかない失敗をしてしまった感じというのはとても「よくわかる」。…これだから私は上遠野浩平が好きなんだよなあ。


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