セツナさんの書評
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「陰陽寮<壱>安倍晴明篇」
富樫倫太郎 徳間ノベルス
1999年12月19
ストーリー
 疫病が猛威を振るい、路傍には死体が溢れる平安京。連日加持祈祷の声が響き渡るが疫病の猛威は大臣の中にも及んでいた。関白の席が空白になりその座を狙う道長と伊周はそれぞれに陰陽師に頼む。安倍晴明、蘆屋道鬼の壮絶な呪術の戦いが始まる――。
感想
 政治の裏で、日本を動かそうとする安倍晴明。晴明は謎だらけです。本書では、神と関わりがありそうな事を匂わしています。 人間なのか、そうではないのか。今後明らかにされるでしょう。呪術の仕組みについては、何一つ記述がないので、何故そのような事が起こせるのかは、一切不明です。これは、陰陽師なら出来て当たり前という世界を作り出していて、晴明や道鬼の不気味さを引き出しています。 官吏の裏から政治を操ろうとする晴明と、晴明に恨みを持つ蘆屋兄弟。二人の対決に渡来人や、盗賊の話しを絡ませて、綺麗にまとまっているのは、中々の読み応えがあります。次巻が楽しみです。

ネタバレ感想
 蘆屋道満って、晴明と名を二分するほどの陰陽師のはずなんですが、この作品では、最下級の式鬼すら扱えない、3流の陰陽師になっています。 大道芸をして生業を立てている姿は、本当に泣けてきます。晴明は不思議な存在です。何を考えているのか、さっぱり分かりません。
 久流須の民が、千年前に起したという、神の怒りを買うほの罪深い犯罪とは、なんなのでしょう。千年生きるという意味も深いですね。一週間でも、単調で、退屈な日々が続くのに、それが千年とは。しかし、神が存在するという設定の割には、神に対しての記述が一切ありません。どういった存在なんでしょう。晴明も神と関わりがあるみたいだし、陰陽術も神に関係あるのか。孔雀が身篭った子。この子供が次巻の核となる人物でしょうか。次巻ですべてが明かされれば良いのですが、長く紡がれる一大叙事詩の気もします。

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