Quanさんの書評
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「真っ暗な夜明け」(講談社ノベルス)氷川透

 第15回メフィスト賞受賞作。「読者への挑戦」つきの本格ミステリ。
 東大出身らしく(偏見)理屈、あるいは主張にみちた文体。主張と言っていい過ぎなら、評価に満ちた文体と言い直そうか。ともあれそれはささいなことで、最大の特徴はくるくると変わる視点。「ヴィラ・マグノリアの殺人」でも採用されていた手法で、視点となっている登場人物の一人が犯人であるというところが焦点。犯人あてが非常にやりにくいと思われる。また、視点の入れ替えによるキャラクターの外面と内面の両方の描写が、キャラクターに魅力を与えている。
 これだけの実力があるなら受賞は納得。ただ、この作品に関して言えば、犯人の視点ですすむ場面で、推理とはちがった思考をしていたような気がする。再読して伏線を確認したいと思う。もしこれがきちんと伏線をはってあって、自分が前述のような感想を抱くように誘導されたのだとすれば、この作品に評価5をつけたいと思う。
評価☆☆☆☆+(保留)

神薫さんの書評
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『氷川透』
 講談社
「真っ暗な夜明け」★★
 主人公・氷川透は大学時代のバンド仲間と久しぶりに会って飲む。その帰り、終電間際の深夜の駅で殺人が!なんと、トイレで仲間の一人がしたいで見つかったのだ!事件当時、地下鉄の駅は彼らだけの貸し切り状態であった。いったい誰が犯人なのか?
 主人公・氷川透クンは、めっぽう女に弱いのに、いらんこといいなので嫌われてしまうという人物で、どこか哀れみを誘われる。いち早く犯人が飲み会メンバーの中にいることに気付いた氷川は、警察に偽証までして自ら推理するのだが、非情にも第二の殺人が起きてしまう。何故彼が、警察に下駄を預けずに自分たちで謎解きすることに強いこだわりを見せるのかが、私には理解できなかった。
 理屈が整然と美しいのは好きなのだが、感情的に疑問が残ってしまった。
 名探偵としてのスタンスに悩み続ける氷川透は、どこへ行こうとしているのだろうか。これからの彼の活躍を見届けたいと思う。
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