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01/8/17 「ルー=ガルー 忌避すべき狼」(徳間書店) 京極夏彦
舞台は21世紀半ば、14,15才の子供たちを狙った連続殺人事件に、葉月たち少女らが巻き込まれる―。
近未来SFだけれど、こういうふうに、人間の物事に対する価値観や概念の変化を中心に説明してくれると、私のようなものでも分かる。ただ訳のわからないシステムの説明が多いSFより、歴史小説を読んでいるようで面白い。
やっぱり京極さんはすごいわ、と思う・・。過去があって現在があって未来がある。これがまさか<『百鬼夜行 陰』の「鬼一口」>と繋がってるとわねー。
未来の世界では、もう妖怪も憑物落としも有効じゃないんだろうか。だから、ああいうすっきりしない結末になったのだろうか。
しかし、ラストの彼女の破壊っぷりは、まるで「百器徒然袋」の榎木津のようではないか。「あたしは天才だ」って「僕は神だ!」みたいだし(笑)。葉月の不安定っぷりは、関口くんそのものだし、そうすると、歩未が京極堂か?役割的には。
そう思って読むと、とても楽しめました(笑)
「何が起きているかより起きたことで自分がどういう気持ちになるのかの方が大事なんだよ。自分の知ることのできる世界はどうせ主観的なものだということに、いい意味でいえば気づいているんだが―反面何も見えなくなってるんだ。・・・」
最強のライトノベル作家・京極夏彦の新作長編。帯には「近未来少女武侠小説」となっております。
21世紀になって数十年が経った頃。ネットワークの発達により、子供たちはモニターを通じて学習やささやかな交流をする程度ほとんど引きこもり状態だった。直接「リアル」に接して交流を持つのは週に1度のコミュニケーション研修くらい。そんな清潔で安全だが常に監視されて渇いた世界に起こり続ける連続殺人事件。顔程度しか知らない同級生が失踪した事件に関わったせいで、いつの間にやら大きな力に追い詰められていく少女たち。そして本当の敵の正体が分かったときに、少女たちのとった行動は…
分厚い。とにかく厚い。750ページ。文字が大きいし段組ないからそれほどの分量ではないけれども、通勤の友にするにはちと辛いサイズでした。物語は前半が世界設定の説明にページを割き過ぎてるためかもうひとつ吸引力が感じられませんが、終盤に解明される謎、そしてスペクタルな展開はさすが筆力がありますねぇ。ぐいぐい引き込む力があります。
でも「京極夏彦の近未来SF」だと過剰に期待して読むともうひとつ満足できないかも。今までの京極夏彦氏の作品に比べると、テーマとエピソードと設定とキャラの部分の噛み合わせがもうひとつ具合がよくなくて効果的に発動していない。今回の作品の設定部分についてはアニメ誌などをはじめとする若者向け雑誌で募集をしたんだそうですが、あれだけ設定周りの説明が多かったのはそれらを生かそうとしたせいもあるのかなあ。
あと、エンターティメイントとしての道を踏み外している、今回の作品は。憑き物が残ってしまうのです。生きることとは、死ぬこととは、殺すこととは一体何か…という今回のテーマからするとすっきりとした回答なんてでないとは思うけれども。
こういう話は、発売中の「SFマガジン」のインタビューに興味深い話が載っています。
ミステリとしては終盤で明かされる謎はなかなか面白い。SFとしては「想像しやすい標準的な未来」なために新味ないです(京極氏はわざと狙ってSF的面白みをつけなかったようです) 京極夏彦の熱心なファン以外は文庫本化を待ってもいいかも。