麻弥さんの書評
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●「サムライ・レンズマン」古橋秀之[徳間デュアル文庫]733円(01/12/20)

スペース・オペラの金字塔である、E・E・ドク・スミスの「レンズマン」シリーズの世界を舞台に「ブラックロッド」や「タツモリ家の食卓」シリーズの古橋秀之が新しい物語を描き出しました。
未来、人が宇宙を縦横無尽にかけまわるようになった頃、宇宙犯罪を取り締まるべく作られた「銀河パトロール」とその中心的存在のレンズマンたちの活躍を描いたヒーロー物語。ストレートでパワフルな完全懲悪モノでありながら、世界の深さも感じさせるお話でした。
原作は1937年、なんと第2次世界大戦前の作品で、今となってはどうしても古さを感じてしまうところがありますが(特に創元社の旧訳は)、古橋さんの手によって新しい酒が注がれて「サムライ・レンズマン」として新たに蘇りました。
とにかく、熱い!! 燃える!! 原作のレンズマンのエッセンスをぎゅっと濃縮しながら、とっつき易さもあり、その上古橋さんのオリジナル要素もうまく加味されていて、プラスの相乗効果を出しています。そう、これなんだ!! 正義を貫くまっすぐさ、熱い魂、途方もないスケール感とスピード感。子供の頃、ワクワクしながら冒険物語を楽しんだ気持ち。そういうのが蘇ってくる、とてもよい話でした。
今回の話は、(原作)3巻の数年後の物語で、古橋オリジナルキャラである日系子孫のサムライの心を持つレンズマン《シン・クザク》を中心に物語が進みます。でも原作メインキャラももちろん登場、その上それぞれのキャラらしい活躍も見せてくれますし、細々とした要素に原作ティストがきちんと残っていて、原作ファンの期待を裏切られない作品。小さくまとまらない、あの物語インフレ感があるあたりこそレンズマンですね。今回の敵の攻撃方法といったら、それゃもう!!
原作を知らない人にもオススメ。特殊用語はさりげなく説明されているので大丈夫。実際、原作を知らない人でも、「おもしろかった」と感想をアップしている人がたくさんいますから。SFは苦手な人でも、「スター・ウォーズ」レベルが大丈夫なら全然平気です。奥は深いですがとっつきやすいので。
原作の旧訳(小西版)では現在絶版となっていますが、もうしばらくすると創元SF文庫にて小隅黎氏の新訳で「レンズマンシリーズ」が刊行されるそうなので楽しみです。「サムライ・レンズマン」を読み終わった後、いてもたってもいられなくて本屋で旧訳の方を探したけども見つからなくてがっかりで。あああ、もう一度読みたい!! 早く刊行してくれないかなあ。
レンズマン思い出話。私が好きなキャラはウォーゼルでした。エピソードでは鉱夫に化けて潜り込む話とか、惑星トレンコの描写、読んだのはあんなに昔なのによく覚えているものですなあ。夢中になって読みふけった記憶があります。
さて、古橋秀之ファンとしてびっくりしたのは、今回の作品の読みやすさとメジャー感。読みやすさについては、あの人は文章や構成、キャラ作成がうまい人だから考えてみれば当たり前ですが、「ブラックロッド」シリーズにしても「タツモリ」にしても読む人をあまりにも選ぶ作品だっただけに、意外な感じがしました。それにこの方の書いた作品って、どうしてもマイナー感があって、これは作風だから仕方ないだろう…と思ってたから今回の「サムライ・レンズマン」にはびっくり。まあ原作ではこの世界においては「悪」は絶対悪で、前向きな物語だから「サムライ・レンズマン」もそういう風にしあがったのかも。…いっそのこと、古橋さんもオリジナルだけではなく、積極的にメジャー作品のノベライズを引き受けて「メジャー作品の書き方」に慣れていったらいいかもしれないなあ、と。すごく好きな作家さんなのに、いかにも売れなさそうな作品ばかり書いているのをみてるのは歯がゆい部分があるので。これだけの実力のある人ですから、専業作家として成功してほしいんです。
微妙にねたばれ感想。→「日本かぶれのアメリカ人がみた勘違いサムライ」そのまんまの描写がなかなかに愉快。あと狂気と悪意の塊の悪人の描写がすばらしいですなあ。それと、今回一番燃えたのは、キニスンが任務解除宣言をするところとそのあとの「QX!!」ですね〜。胸が熱くなりました。そう、こういう物語こそが読みたかったんだ。


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